映画『ひゃくえむ。』を観てきました!
『チ。-地球の運動について』で有名な魚豊さんの連載デビュー漫画が原作。
100m走を題材にした人間ドラマが描かれます。
各キャラの100m走に懸ける情熱、価値観、執念が描かれ、引き込まれました!
スポーツを題材にしているけど、ストレートなスポ根作品とは異なる視点もあって味わい深かったです。
様々な出来事や立場の変化、年齢によって変化する考え方など、どこか人生を思わせる作風。
その積み重ねの結果、描かれるラストは強く心に響きましたね!
作画ではロトスコープを使用しており、リアルな動きが実際の陸上競技の試合を彷彿とさせる実在感!
演出でも、長回しのカットで競技の緊張感が漂う場面もあれば、登場人物の心情を映す大胆な演出もあり、見ごたえがある内容でした。
この記事では『ひゃくえむ。』の感想をネタバレありで書いていきます!
ネタバレが気になる方は注意してください。
感想(ネタバレあり)
「トガシ」と「小宮」のメインキャラを中心に、選手たちの100m走への向き合い方と、経験や年齢によって変わっていく考え方など、興味をそそられるストーリーでした!
今作では、小学生、高校生、社会人と、それぞれの時代で100m走に挑む登場人物たちの姿が描かれます。
まず、トガシと小宮の関係性が面白かったです!
小学生時代、100m走で全国1位を獲り、周囲からも一目置かれるトガシと、鬱屈とした思いを抱き、現実から逃れるためがむしゃらに走っている転校生の小宮。
トガシが速く走る方法を小宮に教えたことをきっかけに、小宮が100m走に打ち込むようになり、友人ともライバルとも言い難い関係になっていくのが見どころ。
高校・社会人でも関係を変え、再び出会うのがドラマチックで惹かれました。
年代が変わる中で100m走に対する向き合い方や考え方が変わるのも印象的。
小学生の時は、才能のままに走っていたトガシが、やがて「負けてはならない」というプレッシャーに縛られ、一時期は競技から距離を置く。だけど高校時代に、廃部寸前の陸上部を助けるため再び走る道を選び、仲間達のために走るようになる流れは王道だけどグッときましたね。
高校編では、怪我をきっかけにやさぐれていた元天才ランナーの先輩が復帰して一緒に走るなど、「スポコンやってるじゃん~!」って展開もあってワクワクしました。
一方、小宮は別の高校で、自分の身体も周囲の人間関係もあまり気にせず、徹底的に己の走りを追求して頭角を現す対比も興味深いところ。
その後、大会でトガシと小宮が数年ぶりに対決する場面で小宮が勝つことに驚き!
トガシの高校生活の描かれ方から、「友情・努力・勝利」の流れかと思ってたら、ちゃんと展開を外してきて、なるほどなあ!と思いました。
後の社会人編の内容やラストを考えると、構成が上手くまとめられていて、観終わったあと改めて感心。
社会人編のシビアな現実の描かれ方や、そのような厳しい世界のなかでどう立ち向かうか・どのように100m走に挑むのかが表現されていて、とても良かったです。
社会人編が一番心に来たし、熱くなる瞬間もあって好きでしたね。
全体を貫くテーマとして、「なぜ100m走を走るのか」という根本的な問いかけが繰り返されます。「人のために行うのか?」「記録のために行うのか?」と、人それぞれの走る理由が提示されて哲学チック。
「年を取るとまあそういうことも考えるよね……」とか、「こういう向き合い方もあるのか」と思わされたりと100mを行う理由は様々。
ある意味、人生に対する問いかけのようにも思えて、陸上競技を全然知らない人でも刺さるポイントはあると思います。
葛藤に苦しみ、シビアな現実に打ちのめされた末に、ラストでとても純粋でストレートな回答にたどり着くのが清々しく感じられました。
約10秒で終わる競技に己の人生の全てを懸けた人たちの生き様が、ラストに一気に凝縮されていて、最後に爆発するような爽快感がありました。
結末の捉え方は人によるところもあると思いますが、シンプルかつ強力なアンサーで僕は納得した気持ちになりました。
心揺さぶられた状態で眺めるEDがまた染みる……!
自分の話になりますが、学生時代に部活で中距離走をやっていたので、なんだか思い出が蘇りました。
今振り返ると、授業で疲れた放課後に練習して、休日も半日以上練習して、そのわりに大会ではそこまでの結果は残せなかったりと、「当時よくできてたなあ」と思うことはあります。
なんでそこまでやってたんだろうなって当時も時々考えてたことはあったけど、今作を観終わった後に自分の気持ちがストンと腑に落ちた感じがありましたね。
(あんなに走って意味あったのか?と思う時もあったわりに特に後悔がなかった理由が、「結局そういうことだったのかな」みたいな感じ。)
セリフ回しのセンスも好み!
序盤でトガシが小宮に話す「100mだけ誰よりも速ければ全部解決する」など、登場人物の価値観を感じさせる内容が耳に残り、印象に残るワードが次々と飛び出すのは個性的。
キャッチ―でありながら、各キャラの考え方が深堀りでき、「この人はこういう思いで100m走に向き合っているんだな」と、キャラを引き立てているのも魅力的。
(作風と合わせて『チ。』と作者が同じというのも納得)
僕が特に記憶に残ったシーンの1つは「財津か小宮」の台詞が出るところ。
演出やその後の展開も含めて、印象に残る一言!
要所要所でのロトスコープ演出を使った作画もリアリティがありました。
実際の陸上選手の走るフォームを元にして表現していて臨場感抜群。アニメでヌルヌル動くと、より鮮烈に印象に残ります。
試合中のスタート前の各選手が紹介されるシーンの長回しも引き込まれました!
昔、試合を眺めていた時も「あ~、こういう雰囲気だったな~」と思う場面も多く、当時の緊張感を思い出してドキドキ。
選手紹介の時の間延びした時間の流れと、スタートしたあとは一瞬で終わってしまうギャップが、すごく陸上競技っぽい。
演出面も見どころで、特に雨のインターハイのシーンでの茫然とした様子と、雨で画面が徐々に覆われていく描写などは見事。劇場の音響の効果も強く感じられました。
僕は原作漫画を未読で観に行きましたが、問題なく楽しめました。
漫画版と展開が違うところが多いらしいので、いつか漫画版も読みたいですね。
今年のアニメ映画は『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』が目立っているけど、『ひゃくえむ。』もそれらの作品とは違う魅力を持つ良作で満足!
観た人によって色々と考えたり感じるところが変わる、奥深い作品なので、鑑賞後に語り合うのも楽しい作品だと思います!
同時期の映画だと『チェンソーマン レゼ篇』もよく出来たアニメ映画!
今年話題のアニメ映画といえば、やっぱり『鬼滅の刃』!
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