先週、最終回を迎えたアニメ『タコピーの原罪』が心揺さぶられる作品だったので感想を書いていきます!
全6話の短編とは思えないほど濃厚で忘れられない内容でした!
ストーリー、演出、声優陣の演技と見どころは多く、良作揃いの夏アニメの中でも頭一つ抜けた完成度。
子供のいじめや親のネグレクトといったキツい描写も多いハードな作品ですが、決して露悪的に衝撃だけを狙ったわけではなく、物語を通して普遍的かつ重要なメッセージを描いており、胸を打たれました。
ストーリーの構成も見事で、想像と違った方向に転がる展開に「ええっ!?」と驚かされ、思わず先が気になるつくり。さらに、複数のキャラの視点が多角的に描かれることで、今作のテーマにも効果的に作用していて非常に巧み。
そして最終回では、自分が思っていた以上に救われたような気持ちが自然と湧いてきて驚きましたね……!
悲しく辛いことばかりが目に入る現代でも、かすかに明るい希望が心の奥底に残るような、余韻のあるラストで深く印象に残りました。
この記事ではアニメ『タコピーの原罪』の感想をネタバレありで書いていきます!
ネタバレを見たくない人は注意してください。
ちなみに僕は原作漫画はジャンプ+連載時に読了済みです。
感想(ネタバレあり)

全6話のコンパクトなアニメで、これほどまでに心を揺さぶられる作品になるとは!
キツイシーンが多いから1話ごとにメンタル削られる時もありつつ、ラストにはじんわりと余韻の残る傑作アニメでした!
原作漫画も素晴らしい作品だと思いますが、アニメならではの演出や声優陣の演技、BGMの使い方などが相まって、さらに魅力が増していたと思います。
今作のストーリーは子供たちのいじめや、その背景にある親のネグレクトなどの現実的な問題を描きつつ、ドラえもんの「ひみつ道具」的なSF要素を交えたドラマになっています。
絵柄だけだと一見ハートフルに見えますが、内容はシビアな現実を描いているので結構なギャップ。
ハッピー星人・タコピーがいろんな「ハッピー道具」を出す姿は、幼い頃にドラえもんを見ていたことを思い出すなじみ深い設定。それだけに、ハッピー道具が事態の解決どころか、余計に大変な事態を招いてしまう展開は色々と興味深いポイント。
現実の問題に対して、ただ道具を与えれば解決できるわけではないリアリティや、相手の状況や気持ちを考えずに善意だけで行動してもろくなことにならない展開は「そうだよなあ……」としみじみ響きました。
(現代を舞台にしたダークなドラえもんみたいに感じる要素はありました)

ストーリーの構成も巧妙で、毎話どこに話が転がるか予想ができず、先が気になる展開になっていたのは面白い。
1話の時点から衝撃。タコピーとしずかの出会いにはじまり、ある時しずかがタコピーから借りた「仲直りリボン」で首を吊ってしまうショッキングな出来事が発生し、そこから「ハッピーカメラ」で写真を撮った時間まで戻ってしずかを救おうとタコピーが奮闘するという、怒涛の展開が繰り広げられ、一気に引き込まれました。
その後も、いじめをしていたまりなをタコピーが撲殺してしまったことでハッピーカメラが壊れ、時間が戻れなくなったり、タコピーがまりなに変装したことでまりなの家庭事情の問題が明らかになったり。
さらには時系列が変わり、タコピーが高校生のまりなと初めて出会った頃のエピソードが描かれるなど、1話ごとに予想と異なる方向に話が転がる展開は驚きの連続。
「しずかって子が主人公か~」⇒「しずか退場しちゃうの……!?」⇒「タコピーが主人公のタイムリープものでやっていくのか~」⇒『ハッピーカメラ壊れるの!?』⇒『まりなの家庭事情も問題あるじゃん……』⇒『しずかも東くんをたぶらかしていて結構ヤバいぞ……』⇒『高校生のまりなとの出会いが最初だったの!?』……みたいに代わる代わる心を揺さぶる展開は、ジェットコースター的な面白さがありましたね。
見直して気づく細かい設定や伏線なども散りばめられているので、見るたびに深まる味わいもあると思います。

それに伴い、いろいろなキャラクターの視点で物語が描かれることで、物語に深みが増していたと思います。
しずか、まりな、東という3人の子供が作中に登場しますが、どの家庭も何かしら問題を抱えていて心が苦しい!
しずかの家庭では、父が家庭を捨て、母は水商売を営みながらまりなの父と関係を持つというネグレクト状態。まりなの家庭は、夫婦喧嘩が絶えず、母親が精神的に不安定で、まりなに危害を加えることすらある状況。東の家は教育ママで、優秀な兄と比較されいつもプレッシャーを感じながら日々を過ごす……みたいに、ひどい家庭がこれほど集結するとは……。
どれも現実にある問題で、子供だと自分の力で環境から逃げることさえも難しいのが悲しい。
まりながしずかをいじめたきっかけが「しずかの父のせいで自分の家庭が壊された」ことへの思い込みだという点、親の世代の因果が子供に悪影響を及ぼす描写は、嫌なリアリティがあって心に残りました。
ストーリーを見ていると、親が悪いのは当然なんだけど、その親たちもさらに上の世代の影響を受けた結果なのかもしれないと考えると悶々とした気持ちになります。
(それでも、ちゃんと自分の子供の事を見ようよ!とは強く思いますが……)

また、視点が変わることでどのキャラも単純に善人とは見せない構成が巧みでした。
冒頭は、いじめられているしずかの視点ではじまり「まりな、ひでえな!」と思わせてから、まりなの視点になることで家庭の事情などが明かされ、東の視点になると「しずかも結構ヤバいこと言ってるぞ……」と思わせられる。一方的な視点でキャラを見せない構成になっていて興味深かったです。
単純に加害者・被害者、善人・悪人に分けず、各人物の弱い部分や汚い部分もしっかりと描いており、いろんな一面があるからこそ人間なんだということを、短い尺の中で描いた手腕は素晴らしい。
今作のテーマの1つは「話し合うことの大切さ」だと思うのですが、様々な視点で描かれていることによって、一方的に相手を決めつけるのではなく、話し合って相手を理解することがハッピーに繋がるということが効果的に表現されていて、自然とテーマが沁み込んでくるのは上手い。
ショッキングなシーンも決して露悪的に見せようとしているわけではなく、むしろ辛い現実を描くからこそ、伝えたいメッセージが鮮明になる印象がありました。

タコピーは良くも悪くも純粋な善意しか当初は持っておらず、人の悪意を知らずに行動した結果、余計に展開が悪化するのはもどかしい。
見ていて時々イラっとする気持ちは湧くけれど「でも、悪気はないんだよな~」と思えるバランスがあって、嫌いになりきれませんでした。
ハッピー星人だから人間の事を知らないだけなんですよね。
とはいえ、知らないで事態に首ツッコんで余計に面倒なことになることって世の中結構あるからね……。
示唆に富んだキャラだと感じましたし、しずかやまりな、東との交流を通してタコピーが少しずつ人間のことを知り、自分の行ってしまったことを知り、相手に寄り添うことを少しずつ理解していく過程に感動しました。

作画や演出、声優陣の演技も素晴らしかったです!
作画はデフォルメ調の絵柄ながらキャラの動きは細やか。背景も北海道の片田舎の穏やかな自然・荒んで汚れた家庭環境のじめっとした空気感が伝わってきて、雰囲気づくりが上手かったです。
演出もアニメーション・BGMともに使い方が凝らされており、異常な出来事に明るいBGMを重ねる演出は、子供の倫理観では異常さを理解できていない様子が伝わるようで、非常に不安を煽られる演出。
テンポの良いところとじっくり見せるところで緩急ある展開も上手い。
他にも、光と影の使い方や、追い詰められた心境に合わせて周囲が歪んで見える描写など、登場人物の心情を反映した演出が没入度を高めてくれました。

そして声優陣の演技も上手かった……!
メインキャラ全員良かったですが、特にしずか役の上田麗奈さんとまりな役の小原好美さんは圧巻でした!
上田さんは、しずかの感情のない声色から、物語が進むにつれ悪女のようにすら感じる魔性な雰囲気や、ほのかな狂気を感じる声のトーンには恐れを感じましたね。
なかでも最終回の演技は凄かったです。しずかの内にずっと溜まっていた怒りと悲しみが一気に吐露されて、切実さと痛々しさが存分に伝わってくる迫真の演技。見ているこっちが思わず涙。
あそこは本当に記憶に残るシーンでしたね……。
どうしようもない現実に対してしずかがストレートに気持ちを出し、それに対してタコピーが素直にどうしたらいいのかは分からないと答えて、でも分からなくてもしずかの気持ちに寄り添おうとする姿。
思わず「タコピー……!!」って感情が高まりました。タコピーはすごいよ。
小原さんの演技も見事で、学校や家で色んな一面を見せるまりなの多面性だけでなく、タコピーが扮した明るいまりなの姿も演じきっており、難しい役どころをこなしていて素晴らしかったです。

全体的に面白かったのですが、特に最終回では、自分でも驚くほど心を揺さぶられました!
正直、終盤の展開は一部駆け足気味に感じる箇所はありました(タコピーが自分を犠牲にすればハッピーカメラをもう一回使える設定や、しずかとまりなが仲良くなる過程が少し急に感じたところなど)
ですが、それ以上にタコピーの想いがきっかけとなって、しずかとまりなが話し合う機会が生まれ、高校生になっても気の置けない友人関係になってつるんでいる姿にはジーンとしました。
家庭環境の問題など、どうしても解決できないものはあるけれど、それでも自分の気持ちを話せる相手ができて日々を生きている2人の姿は、感慨深かったです。
僕が感じたものが感動なのかは分からないけど、「この先も大変なことはあるかもしれないけど、2人は大丈夫かもしれない」と素直に彼女たちの未来を信じられる気持ちが湧きあがり、自分が思っていた以上に救われた気持ちになったラストでした。
(東くんも兄貴とちゃんとケンカできたし、友人もできたようで良かった!)
現実は悲しいこと・辛いことばかりが目に入って大変だけど、気持ちを話せる存在が近くにいればなんとか生きていけるのかもなあ……なんてことを考えたりする作品でしたね。
「ハッピーエンドで全て解決」だと今作の内容だと嘘くさくなるのでちょうどいい着地点。
タコピーが自らの身を懸けて他人の幸せを願った先に繋がった、ほんのりと明るい希望が心に残るラストが美しかったです。
見終わった後の余韻がすごく、特にEDの「硝子の線」が染み渡る……。

僕は昔ジャンプ+で原作を読んでいたのでぼんやりと展開を覚えていましたが、改めて見ると物語構成の巧妙さに気づけましたし、アニメによる補完や演出も冴えわたった見事な作品でした!
キツイ展開が苦手な人には向かないかもしれませんが、展開も飽きさせないし、メッセージ性も胸に染みる傑作。
各種サブスクで配信中なので興味ある方はぜひ視聴してみてください!
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