Switchで『everlasting flowers』をクリアしたので感想!
『蒼の彼方のフォーリズム』などを手掛けてきたspriteが手掛けるノベルゲーム。
5時間ほどでクリアできるコンパクトなボリュームながら、豊富に用意されたイラストCGで豪華。
少女たちの交流や成長を描いた繊細な物語はしっとりと感動が心に残る良い短編でした!
学校に馴染めず人間関係に傷ついて引き篭っていた少女「坂下深菜」と、恵まれた家に生まれながら家族に愛されていないことに苦悩する少女「星野蘭」を中心に、ペンションでの夏の1ヶ月の出来事を描く物語。
悩みを抱える少女たちの等身大の物語が、丁寧な心理描写で描かれていて読後感も良かったです。
イラスト、BGM、演出など作品全体の雰囲気が眩しさとちょっとの儚さがあって綺麗な印象なのも好み。
個人的に気になった点は、もうちょっと人物の関係性を深めていくシーンを増やしてくれた方が終盤の展開がもっと自然に納得できたかなと思ったところ。
コンパクトなボリュームなのは好感を持てますが、作品で伝えたいメッセージがセリフで終盤に集中的に語られている印象を少々感じてしまいました。
個人的には、物語の過程で関係性や考えが変化していくシーンをもう少し詳細に見せて欲しかった気持ちはあります。
声優さんの演技もキャラにマッチしていてバッチリ!
特に主人公の深菜のCVを担当する上田麗奈さんの繊細な演技は、心情を見事に表現していて引き込まれる。物語への没入感を高めてくれてとても良かったです!
ストーリーの詳細なネタバレは避けていますが、一部内容に触れている箇所はあります
『everlasting flowers』とは
『恋と選挙とチョコレート』『蒼の彼方のフォーリズム』などを手掛けてきたspriteが手掛けるノベルゲーム。
ボリュームよりクオリティや多彩なCGなどを重視した「FILMIC NOVEL」というコンセプトの作品。
とあるペンションを舞台に、深菜と蘭の2人の少女がそれぞれ葛藤しながらも成長し、自身の人生に向き合っていく物語が描かれます。
ストーリー
知らない街への引っ越しを機に、有名女子校に進学した坂下深菜。
お嬢様ばかりのクラスに馴染めず、一年前に不登校になり部屋に籠っていた。
ゆっくりと進む時間。永遠のような一日。窒息しそうな日々。
部屋の中でドライフラワーを見つめながら、『私の居場所はここしかない、ずっとこの部屋にいるしかないんだ』と、深菜は自分に言い聞かせた。星野蘭は恵まれた家に生まれ、両親に敷かれたレールの上を歩んできた。しかし、幸せな生活は徐々に壊れていき、自分が誰にも愛されていないと思い知る。
そんな二人がとあるペンションで出会い、夏の一ヶ月を一緒に過ごすことになった。
楽しい時間、癒される心。誰も信じない、裏切られてもいいと思えるような人にはもう出会えないと思っていたのに。
柳瀬美智子、成瀬陽毬たちと共に、ずっとここにいたいと思い始める。
しかし橘紗波は、それは自分が本当に向かわなければならない場所から目を背け、逃げているだけだと指摘する。本音で話すことから逃げてきた。学校からも逃げて、友達からも逃げて、自分のことを好きな人なんて誰もいないと思っていた。
公式サイトより
駄目な自分に向き合うのが辛い。あの部屋に帰りたくない、昔の自分に戻るのが怖い。
時間が少なくなる中で、最後まで自分の居場所を探そうとする深菜に、蘭は――。
感想
5時間ほどで読み終える遊びやすいボリュームで、等身大の少女たちが悩みながらも少しずつ成長していく物語にジーンとさせられる!
あらすじやPVでイメージした通りの内容が描かれるので、そこでピンときた人はおそらく合います。
光と影の使い方が上手い透明感のあるイラストやピアノ調の綺麗なBGMなど作品全体の雰囲気が心地良い。
特にイラストはどれも魅力的だし、かなり豊富に用意されています!
テキストを数行進めるたびに新しいCGになったり、差分があるので見た目的にも飽きさせない。ノベルゲー初心者の人でもプレイしやすいと思います。
地に足のついた話で現実的な思春期の悩みなどを描いているんですが、雰囲気のおかげでどこか眩しさが漂う印象がありました。限られたこの瞬間にだけ存在するきらめき…みたいな感じ。青春に近いかも。
派手な出来事は起こらず、会話や日常の出来事の積み重ねで心情が変化していく様子を丁寧に描いているのが魅力!
学校でうまくいかず人付き合いで傷ついた深菜が、新しい環境で新しい人たちに出会ったことで影響を受け、少しずつでも踏み出そうとする姿にしみじみ。
外の世界が怖くてもそれでも自分を変えようと頑張ろうとする深菜の姿に共感できるところや心に沁みるものがあって、「こういう気持ちわかるなあ……」と感慨がありました。
僕はもう歳を重ねてしまったので過去を思い返す気持ちになるんですが、10代後半〜20代前半くらいの時に今作をプレイしていたら、もっと刺さっていたと思います。
深菜と正反対の性格の少女「蘭」の悩みや成長も描かれていてのも見どころ。
明るいギャルといった風貌の子ですが家庭環境が冷え切っており、自分が愛されていないことに悩んでいる。その中で、彼女なりの道を進んでいくのが立派だなあと素直に感じました。
2人とも未熟な部分があるだけに、上手くいかずぶつかり合ったりすれ違うこともしばしば。
それでも話し合ったり理解し合おうとすることで、関係性が深あっていく様を丁寧に描いていてジーンとしました。
自分にとって大切な存在がこの世界にいることに気づけた喜びみたいなものが感じましたね。こういう話好きですね……!
パッケージやOPムービーから百合系作品の雰囲気を感じていましたが、そこまで百合系要素はなかったかな。ほのかな百合っぽさを感じる展開はあるけど恋愛関係になるとかはなし。友情の延長線上の大切な存在として描かれている印象でストーリーに合っていたと思います。
メインの2人以外にもペンションの責任者の美智子さんや、ペンションの手伝いをしている中学生の陽毬ちゃんなど、周りの人物もそれぞれキャラが立っており存在感がありました。
短いボリュームの作品なのでメイン2人の話だけかと思ったら、想像よりも周囲のキャラの話も描かれていたのは驚き。それぞれのバックボーンも興味深かったので、もっと他キャラの過去編も見たかったくらい。
クリアまでは5時間ほどのボリュームで遊びやすかったのも個人的にはありがたい。
好みが分かれそうな点や多少気になった点も挙げると、予想外の展開のないストレートな内容と、作品のメッセージ部分が後半にセリフで一気に語られるように感じた箇所はあったかな。
今作はストレートな内容なので、プレイ前に予想した展開で大体話が進むので驚きは少なめ。
公式サイトのあらすじでストーリーの大体の流れを載せているので、プレイ後にあらすじを見返したときに驚きました。
物語に意外な展開を求める人は合わないかもしれませんが、今作の魅力は登場人物の心の変化や日常の些細なやり取りなど、繊細な心情描写や関係性の変化の方に重きを置かれています。その手の作風が好きなら刺さるはず。
あとは作品のメッセージのような部分が、終盤に一気に語られたような印象を受けたのはちょっと気になったかな。悪くはないですが、後半で集中的にセリフで語られるのは目に付きました。
詳細な内容については記載しませんが、僕の感じた気持ちとしては「納得できる内容ではあるけど、その意見だけでいいかな……?」と思っているうちに話が進むので、もうちょっと段階的なやり取りがあったら嬉しかったなとは思いました。
作品内で描かれるメッセージに納得できていないわけではなく、その展開に至るまでにもっと段階があればより自然に受け入れられた気はします。コンパクトなボリュームで展開が絞られている分、少し展開が性急に感じたのかもしれない。
ただ、心情の変化とか関係性の変化が描かれていないわけじゃないです。あくまで僕が物語の流れの中で自然に納得するには、もう少し関連シーンが用意されていたらもっと良かったという話
エンディングの清々しさやほんのりした切なさなど読後感は良かったです。
ストーリー、イラスト、BGM、声優さんの演技も合わせて作品全体の雰囲気が良い!
思春期の悩みや成長を描いたひと夏の物語で、良い短編小説を見終えたような心地よさがありました。特に10代後半〜20代前半くらいの人なら、なおさら共感できるんじゃないかなあ。
CG数もたくさん用意されており、サクッとクリアできるのでノベルゲー初めての人にもおすすめ!
10時間以内にクリアできるコンパクトなノベルゲーのおすすめならこちらもぜひ!
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