映画『オッペンハイマー』感想|情報量が凄まじい濃厚な3時間。様々な感情や考えが湧き上がる、非常に興味深い異色作【詳細なネタバレなし】

映画感想
引用元:本予告より
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現在公開中の映画『オッペンハイマー』を観てきました。
昨年海外で公開され、今年のアカデミー賞を最多7部門獲得した話題作。
日本でついに公開!

僕は近場にIMAX上映の映画感がないため、通常の上映形態で鑑賞。

3時間の長尺に加え、ノーラン監督作品特有の複数の時間軸を並行で見せる手法など、凄まじい情報量に圧倒されました!

また、一概に感想を言いがたい内容やオッペンハイマーという人物の背景などが非常に興味深く、鑑賞後も色々と考えてしまう余韻があります

この記事では、映画『オッペンハイマー』の感想について書いていきます!

物語の結末など詳細なネタバレは避けますが、一部映画内の描写や内容について触れています。完全に情報なしで見たい人はご注意ください

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映画『オッペンハイマー』とは

公式サイト

『ダークナイト』『インターステラー』『テネット』など数々の話題作を手掛け、高い人気を誇るクリストファー・ノーラン監督の最新作。

「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材にした作品。

カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を原作とし、オッペンハイマーの栄光と没落の生涯、苦悩と葛藤を描いた一作。

監督・脚本・製作はクリストファー・ノーラン。音楽は『テネット』のルドウィグ・ゴランソンに、撮影は『インターステラー』以降ノーラン作品に携わっているホイテ・ヴァン・ホイテマ。

出演は、キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.など。

原子爆弾を開発した人物が題材なだけに、日本での公開には紆余曲折ありましたが、2024/3/29より、ついに公開。

ストーリー

第二次世界大戦下、
アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて
世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、
その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、
オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。
世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。
今を生きる私たちに、物語は問いかける。

公式サイトより
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感想(詳細なネタバレなし)

本予告より引用

もの凄い情報量の3時間で圧倒されました!

色々な要素の詰まった作品で多彩な観点で味わえる骨太な作品。
オッペンハイマーという人間の歩みや世間の評価、当時のアメリカ情勢について描かれるのは知らないことばかりで興味深かったです。

そして、オッペンハイマーがどういう人物だったか一概には言えず、分かりやすく評価できない感じが非常に印象に残ります。

僕の中でも色々と思考がめぐったり、気持ちが渦巻いたりして鑑賞後にもふと思い出すような余韻がありました。

「原子爆弾を開発した人物」という題材的に人を選ぶし、誰にでも勧められる作品ではないと思いますが、僕としては素直に観て良かったです。

3時間の長尺で「3つの時系列の出来事が並行して語られる展開」「数十人以上の登場人物が続々あらわれる」「量子力学などの物理用語が次々と出る」など、情報量が多くて圧倒されっぱなし。

事前情報全くなしで観に行くと、油断したら振り落とされるんじゃないかと思うほど。
(それはそれで味わい深い映画体験になるかも)

僕は歴史で何があったのかという時系列だけさらっと調べてから観に行ったのでなんとか振り落とされませんでした。とはいえ、鑑賞後に調べて理解した部分も多め。

史実が題材なので、あまりネタバレを気にするような作品ではないと思います。鑑賞前にさらっと時代背景や時系列を抑えておくと、より集中しやすいかもしれません

だけど面白いのが、会話劇主体の3時間という内容で最後まで飽きずに集中して鑑賞できたこと。
内容が複雑なのは間違いないですが、分からなくてつまらないということはなく、最後まで興味が持続する感覚。

この作品は、伝記映画であり、お仕事映画の要素があり、一種の法廷映画の要素ある……といった複数のジャンルのエッセンスが含まれている印象を受けました。

いろんな要素が入っているのも複雑な印象を受ける理由の1つかもしれない。
さらに複雑といえば、今作が焦点に当てているオッペンハイマーという人物自体が多面的な存在。

オッペンハイマーは、物理学の天才ですが決して善人という感じではなく、かといって悪人とも言い難いところが興味深い。

学生時代に精神が不安定でとある危険で思いがけない行動をしたり、妻がいながら別の女性と関係を持つといったモラルにかけた振る舞いなど、人間的に完璧ではありません。

ですが同時に、周囲の人間を引き付ける不思議な魅力を感じるのもたしかだし、国家間のプロジェクトを成功させたのはオッペンハイマーの手腕だから達成できたことだと思います。

また、原子爆弾開発前と開発後で考えや行動が大きく変化したりと、一概に「こういう人間だ」と断定できない感じが強かったです。
それはある意味人間らしく描かれているのかもと個人的に思いました。

本予告より引用

オッペンハイマーは原子爆弾という恐ろしい兵器の開発に携わっていくわけですが、その背景に当時のドイツやロシアに対する恐怖や危機感がアメリカの国中にあり、そこから開発プロジェクトに繋がっていく流れは、アメリカの歴史に詳しくなかったので勉強になる部分でした。

開発プロジェクト部分はいわゆる「お仕事映画」の雰囲気を彷彿とさせるところがあります

アメリカ中から天才研究者が集結し(次々新しい人物が登場しますが、後で調べたらノーベル賞受賞している人ばかりで驚いた)、これまで人類が開発したことがないものを生むため、いろいろな障害にぶつかりながらも目標に向かっていく様には、高揚感を感じてしまうのは否めない。

(テレビ番組で例えると「プロジェクトX」を見ているかのような感じ)

そして、初めて核実験を行う「トリニティ計画」のシーンは映画館だと圧巻でした。

実験中のミスが許されない&実験後に何が起きるか分からない凄まじい緊張感。
音楽がまた絶妙に不安を煽り、「この実験のあとに世界はどうなってしまうんだろう」という恐怖と興味が胸の中を渦巻く見事な演出でした。

そして、実験後に描かれるシーンの神々しさと恐ろしさ。
光がスクリーンいっぱいに広がったあとに数分遅れで巨大な爆発音が届く演出は、映画館だと震えるような迫力がありました。

この時に僕は、一瞬プロジェクト成功の達成感のようなものを感じましたが、この計画の成功が原子爆弾の誕生になり、それがやがて日本に落とされるという結末を知っているので、非常に複雑な心境に。

作中に登場する台詞で「300年の物理学の成果が大量破壊兵器なのか?」というものがあるのですが、まさにこの心境。

世界有数の天才たちが集まり、人類の英知を結集した結果、人間を滅ぼすものを生み出してしまったという流れに、あらゆる感情が渦巻きます。

本予告より引用

ちなみに原子爆弾の被害を直接的に見せるシーンは特にはなかったです。
原爆を日本のどの都市に落とすか議論するシーンや、戦後に原爆の被害の映像をオッペンハイマーが見て思わず目を背ける様子は描かれますが、直接的にグロテスクな描写はありません。

その点について、賛否両論あると思いますが、個人的には今作はオッペンハイマーに焦点を当てて描いた作品なのでこの描き方で特に不満はありませんでした。

(強いて言えば、オッペンハイマーが原爆被害の状況の幻影を見るシーンは、少々中途半端に感じ、逆に矮小化して見える印象はあったかも。
今作では、原爆被害の描写は直接的に触れても触れなくても個人的にどちらのやり方でも構わないのですが、どちらにしても振り切った描き方のほうが引っ掛からなかったように思いました)

むしろ、原子爆弾投下の判断については、開発者のオッペンハイマーが脇に追いやられていく様が恐ろしかったですね。

生み出した当人に関わらず、自分の預かり知らぬところで使い方を勝手に決められ、危険な兵器がコントロールできない様になっていくところに、国や組織の怖い部分を感じました。

そもそも、敵国に対する恐怖が蔓延する当時の空気感が、兵器開発や兵器使用を駆り立てた可能性についても考えると、民衆すらも他人事ではないのかもしれない。

本予告より引用

原子爆弾開発当初は「圧倒的な兵器をつくれば、それをみんなが恐れて誰も争うことはなくなるだろう」という考えもあったのに、開発後はは、さらに強力な水爆の開発の話が進んでしまうところも無情。

水爆の開発に対してはオッペンハイマーは反対したものの、それをきっかけに今度はスパイ容疑をかけられ、審査にかけられる流れも考えさせられるものでした。

オッペンハイマーが、兵器の開発競争が続くと今後もより強力な兵器が生まれ、結果さらに世界が危機的状況になることを恐れるのと同時に、そもそも強力な兵器を生み出したのがオッペンハイマー自身というのも皮肉な話。

戦後のオッペンハイマーに対しての追求は、時系列が混ざって描写されるので分かりにくい部分はありつつも、世間から称賛されていたオッペンハイマーが次第に国の敵として疑われていく様が、歴史による立場の変化を感じさせて興味深い。

全編通してオッペンハイマーという人間、そして自らの生み出したもので自らを危機に落とし込む人間の模様を描いていて、なんとも示唆深い。
しかもそれが、現状の世界情勢に繋がっている部分と考えると自分たちも他人事と言えない感じに不安になる。

観る人によっていろんな感想や考えが生まれる作品だと思います。

本予告より引用

主演を演じたキリアン・マーフィーの演技は全編にわたって見事だし、オッペンハイマーを陥れようとするストローズを演じたロバートダウニーJrの演技も役柄にマッチしていて良かったです。

ただ、この作品が素直に面白いと言えるかはちょっと迷うところはありますね。

やはり尺の長さや入り混じった時系列などの複雑さに加え、日本人の視点だと感情的にモヤモヤする部分はあるとは思います。

(決して戦争や原爆開発を賛美する内容ではないとはいえ、原爆によって実際に凄まじい被害があったのは事実だし、そこを考えてしまうところはあります)

とはいえ、戦時中から戦後のアメリカの歴史背景やオッペンハイマー周囲の出来事は今まで知らなかったことだけに、この映画で知ることができたのは為になったし知見が広がりました。

戦争が現在でも起きている「今」に繋がる作品だと思いますし、今後の人間社会や未来に対して思い馳せる上でも、観る価値のある作品だと強く感じました。

情報量の多い作品のため、集中して観る上でも、トリニティ計画の衝撃を感じる上でも、映画館で観るのがおすすめですね。

映画観終わったあとだと、原作本の内容も気になる……。

同い年のアカデミー賞受賞作だとゴジラも!

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